山菜料理 出羽屋

山から届いた、春のしるし

山ノオト

2026.02.09

出羽屋さんから、山の文庫便が届く。
箱を開けると、春の気配がこぼれだす。
凍てつく冬の中、私は春の存在をすっかり忘れてしまっていた。

*

寒さで重いからだを引きずり、ケトルにお湯を沸かす。
シュシュシュと鳴る音が、これから始まるゆったりとした時間を知らせる。
ドリップバッグからしたたる雫が、部屋を穏やかな香りで満たしていく。
コーヒーが口の中をすべる。
お気に入りの毛布が肌に馴染むように滑らかにすべる。
こわばっていたからだが、その温もりの中へと緩やかに着地する。

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gira e giraさんのココアサブレは、どれもお花のような形をしていて、それだけで楽しくなる。
いちご、カカオニブ、チョコの縞模様。
三姉妹のサブレが、春の訪れを祝うように舌の上で軽やかに踊る。
続けて、ふきのとうクッキーを口元へ運ぶ。
青い香りが鼻腔をくすぐる。
奥歯でかみしめ、ガリリッと音がなる。
それはまるで、春一番の陽射しをあびて緩んだ雪のよう。
一気に踏み抜いた時の、あの感触を思い出す。
ザクッと沈み込む生地の中で、ホワイトチョコが雪どけ水のようにほどけていく。
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おいしいものたちは、瞬く間に私の内側へと消えていった。
小川糸さんの『ツバキ文具店』は、家族が寝静まった後にとっておこう。
枕元を照らす、だいだい色の小さな光。
世界には、私ひとりしか存在しない。
その小さな静けさが、日々の私を癒していく。
出羽屋さんはこの物語のどこに惹かれたのだろう。
一ページずつ答えをすくいあげる時間は、私だけの至福のひとときだ。

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季節のうつろいを五感で届けてくれる、山の文庫便。
ほのかに鼻がツンとする澄んだ春の空気が、淡く日常にとけていく。
明日の朝、いつもとは違う空気を吸い込んで、私は目を覚ますだろう。


文:なかじま図案室