今年は雪が少ないね、
なんて話していたのも束の間でした。
暦は正直で、大寒を過ぎたあたりから、凍えるような空気がきちんとやってきたのです。
朝、窓から外をのぞくと、昨日までの景色がそっと書き換えられていて、つい、ため息をついてしまいます。
やむ気配のない雪が、音を吸い込みながら、あたり一面を覆っています。
この白さの中で暮らしていると、雪は決して「特別なもの」ではなく、ただの背景になります。
雪かきは日課で、濡れた長靴はストーブの前で順番に乾かし、晴れ間が少しでものぞけば、それだけで今日はいい日だと思えます。
けれど、県外からいらっしゃるお客さまは、この景色を前に、言葉を失ったように立ち止まり、写真を撮りはじめます。
「きれい」「映画みたい」
そんな声を聞くたび、見慣れてしまったはずの風景が、少しだけよそ行きの顔をします。
そしてつい、わたしたちも鼻が高くなります。
この場所で暮らしていることが、ちょっとした誇りのように胸に残るのです。
わたしは、冬が一番嫌いで、一番好きです。
寒さに身体をすくめていると、気持ちまで固くなってしまうことがあります。
朝、布団から出るのに理由がいる日もあれば、考えごとは、夏よりずっと進みが悪くなります。
冬は、ときどき心を鈍らせます。
それでも、この季節になると、
食べもののことを考える時間が増えます。
寒さに耐えて、味を蓄えた野菜。
干され、寝かされ、静かに仕上がっていく保存食。
祈るように獲れた、動物たちの命。
冬は、派手さはありませんが、どれも芯があり、滋味が深いです。
「今、これがいちばんおいしい」とまっすぐに思えるものが、この季節には、確かにあります。
そして、その文化を残してくれた先人たちの知恵に、ただただ感服するのです。
心は少し鈍くなりますが、
舌と身体は、むしろ正直になる。
だからきっと、
冬が一番嫌いで、
一番好きなのだと思います。
雪を受け止める暮らし。
雪を受け止める仕事。
それは、この土地で続けていくための、ひとつの知恵なのかもしれません。
お帰りの時間、玄関先でお見送りをすると、お客さまは何度も雪降る空を見上げながら、白くなった道をゆっくりと歩いていきます。
その背中が、雪の向こうに溶けていくのを見送りながら、今日もまた、この場所で一日を重ねられたことを思います。
明日もきっと、雪は降る。
それでもまた、
ここで続けていく理由が、わたしたちにはあります。
