約30年前の小学校の図書室の本棚。
当時は本を借りたら、そこに出来る隙間に
自分のクラスや名前入りの板、
「代本板」を差し込むことで、
子どもたちの返却時の目印としていたことを
ふと懐かしく思い出した。
わたしの代本板は、福永令三さんによる
児童文学・クレヨン王国シリーズの、
パステルカラーの装丁が並ぶコーナーの中に
しばしば滞在していた。
アニメ化もされたクレヨン王国の十二ヶ月。
短編オムニバス形式のクレヨン王国いちご村。
ファンタジー作品として人気のシリーズ中に
お気に入りが複数ある中でも、
「クレヨン王国七つの森」が一番好きだった。
なかなか戻ることのないレアな一冊に代わって
大抵いつもそこにあるわたしの代本板は、
もしかしたら借りたい誰か、同窓生の子どもを
やきもきさせていたのかもしれないと
今ちょっぴり申し訳ない気持ちになっている。
大人になってからは文庫版を手に入れ、
誰にも迷惑をかけずに、いつでも好きな時に
不思議な「ネコ犬」や「金魚グマ」の住む
七つの森に行くことが出来るようになった。
当時は本を借りたら、そこに出来る隙間に
自分のクラスや名前入りの板、
「代本板」を差し込むことで、
子どもたちの返却時の目印としていたことを
ふと懐かしく思い出した。
わたしの代本板は、福永令三さんによる
児童文学・クレヨン王国シリーズの、
パステルカラーの装丁が並ぶコーナーの中に
しばしば滞在していた。
アニメ化もされたクレヨン王国の十二ヶ月。
短編オムニバス形式のクレヨン王国いちご村。
ファンタジー作品として人気のシリーズ中に
お気に入りが複数ある中でも、
「クレヨン王国七つの森」が一番好きだった。
なかなか戻ることのないレアな一冊に代わって
大抵いつもそこにあるわたしの代本板は、
もしかしたら借りたい誰か、同窓生の子どもを
やきもきさせていたのかもしれないと
今ちょっぴり申し訳ない気持ちになっている。
大人になってからは文庫版を手に入れ、
誰にも迷惑をかけずに、いつでも好きな時に
不思議な「ネコ犬」や「金魚グマ」の住む
七つの森に行くことが出来るようになった。
繰り返し借りて読むほど気に入っていたのは、
わたしが自然探検クラブに所属していたことで
内容に親近感を覚えたからだった。
「あれがカツラ、イタヤカエデ、アカシデ、
ほれ、コブシだ、ヤマボウシ、ホオノキ、
まったく、クレヨン王国だな。」
(福永令三『クレヨン王国七つの森』講談社 青い鳥文庫,1985,28頁)
作中の自然観察クラブ顧問である杉山先生は、
「クレヨン王国」というのが口癖である。
曰く、これは一種の感嘆詞で、
素晴らしい景色や美しい色を見つけた時、
児童が描いた絵の色遣いを褒める時などに
先生が度々口にするのだという。
確かに一つの語彙としては使えるもので、
先日、志津のネイチャーセンター付近から
秋の山々を見下ろしたときに、
「まさしくクレヨン王国だ!」と息を飲んだ。
わたしが自然探検クラブに所属していたことで
内容に親近感を覚えたからだった。
「あれがカツラ、イタヤカエデ、アカシデ、
ほれ、コブシだ、ヤマボウシ、ホオノキ、
まったく、クレヨン王国だな。」
(福永令三『クレヨン王国七つの森』講談社 青い鳥文庫,1985,28頁)
作中の自然観察クラブ顧問である杉山先生は、
「クレヨン王国」というのが口癖である。
曰く、これは一種の感嘆詞で、
素晴らしい景色や美しい色を見つけた時、
児童が描いた絵の色遣いを褒める時などに
先生が度々口にするのだという。
確かに一つの語彙としては使えるもので、
先日、志津のネイチャーセンター付近から
秋の山々を見下ろしたときに、
「まさしくクレヨン王国だ!」と息を飲んだ。
たくさんの黄色にたくさんの橙、
薄緑、緑、深緑、赤、深紅、茶色、
褐色は一口に言えず黄褐色、茶褐色、赤褐色。
そしてこれらが混じりあって生まれる、
何色とも形容しがたく複雑な、
月山の秋を完成させる色合い。
西川の秋の絵には、実にたくさんの
自然の「クレヨン」が使われている。
山形県立自然博物園・ネイチャーセンターは、
縁あって出羽屋で働くようになり、
西川の山を知る必要のあるスタッフとしては
入門的に行っておくべきスポットということで
九月の初旬に初めて足を踏み入れた。
センターの親切なスタッフさんが
歩き方や見どころを丁寧に案内してくれる
ガイドツアーも一日二回催されている。
山歩き初心者にも歩きやすく、それでいて
月山山麓の天然ブナの林の魅力には
短時間でもしっかりと触れられる点で、
出羽屋に滞在されるお客さま方にも、
車で約30分の道程を行けるのであれば
ぜひ足を伸ばしていただきたい場所である。
薄緑、緑、深緑、赤、深紅、茶色、
褐色は一口に言えず黄褐色、茶褐色、赤褐色。
そしてこれらが混じりあって生まれる、
何色とも形容しがたく複雑な、
月山の秋を完成させる色合い。
西川の秋の絵には、実にたくさんの
自然の「クレヨン」が使われている。
山形県立自然博物園・ネイチャーセンターは、
縁あって出羽屋で働くようになり、
西川の山を知る必要のあるスタッフとしては
入門的に行っておくべきスポットということで
九月の初旬に初めて足を踏み入れた。
センターの親切なスタッフさんが
歩き方や見どころを丁寧に案内してくれる
ガイドツアーも一日二回催されている。
山歩き初心者にも歩きやすく、それでいて
月山山麓の天然ブナの林の魅力には
短時間でもしっかりと触れられる点で、
出羽屋に滞在されるお客さま方にも、
車で約30分の道程を行けるのであれば
ぜひ足を伸ばしていただきたい場所である。
かくいうわたしも、美しい緑の中を歩いたり、
ガイドさん指導のもと実際に木々に触れたり、
休憩に冷たい湧き水を柄杓で飲んだり、
あちこちでさまざまなきのこを見つけたり、
鳥の鳴き声を辿って望遠鏡で覗いたり、
可愛い小さなカエルを袖に乗せ触れ合ったり。
よくあるようでなかなか出来ない体験の数々に
ネイチャーセンターにすっかり魅せられ、
最近のクマ騒ぎによる躊躇いさえなければ
繰り返し行きたいと思えるスポットになった。
ガイドさんが今日の思い出のお土産にと
その場で作ってくださったイタドリの笛は、
童心に帰るアイテムとして宝物にしている。
たくさんの心に映えるスポットがあった中でも
特に印象に残ったのは、「トチノザウルス」。
意志を持ったかの如き曲線で伸びた幹が、
頭をもたげる長い首の恐竜のようだと
一本のトチの木に名付けられた愛称だそうだ。
ガイドさん指導のもと実際に木々に触れたり、
休憩に冷たい湧き水を柄杓で飲んだり、
あちこちでさまざまなきのこを見つけたり、
鳥の鳴き声を辿って望遠鏡で覗いたり、
可愛い小さなカエルを袖に乗せ触れ合ったり。
よくあるようでなかなか出来ない体験の数々に
ネイチャーセンターにすっかり魅せられ、
最近のクマ騒ぎによる躊躇いさえなければ
繰り返し行きたいと思えるスポットになった。
ガイドさんが今日の思い出のお土産にと
その場で作ってくださったイタドリの笛は、
童心に帰るアイテムとして宝物にしている。
たくさんの心に映えるスポットがあった中でも
特に印象に残ったのは、「トチノザウルス」。
意志を持ったかの如き曲線で伸びた幹が、
頭をもたげる長い首の恐竜のようだと
一本のトチの木に名付けられた愛称だそうだ。
「七つの森」でも、自然観察クラブに所属する
子どもたちが挑むオリエンテーリング企画で
杉山先生が謎解きの鍵を設定するにあたって、
樹々の下枝が抜け出ている白い空間を
たてがみのある「白きライオン」と見立て、
ハゼノキに宝物を隠しておく場面があった。
木々が織り成す景観が掻き立てる想像力は、
子どもにも大人にも有効である。
冬場の豪雪をじっと耐え抜き、
その形を育まれた歴史と浪漫を感じさせる
トチノザウルスもまた、
自然博物園を訪れる人々に親しまれている。
ブナの葉が緑の時には淡い木漏れ日が降り注ぎ
例えるなら色鉛筆王国という感じだったが、
これらが黄葉したなら一体どうなるのだろう。
どんなに美しくなってしまうのだろう。
子どもの頃、クラブ活動で培った
好奇心と探求心が捨てきれず、
ネイチャーセンターが冬季休園に入る前週、
「今日しか予定を空けられない」と思い立って
車を山の方へと走らせたというのが、
「先日」の十月末の話である。
こんな悪天候はクマも出歩かないだろうという
横殴りの雨が、かえってわたしを駆り立てた。
冬が来る前に是が非でももう一度行きたいと、
惹きつけてやまない場所となったのだ。
大人になっても自然探検クラブ活動は続く。
しかしながら、ネイチャーセンターに着けば
雨はなんと、みぞれ混じりに。
前の週に月山が初冠雪しており、
麓にも冬は着々と近づいているのであった。
「七つの森」では、霧女ボーゼなる登場人物が
森の奥へ子どもたちを近づけない、
恐るべき存在として描かれていたが、
わたしもボーゼに「この先は危険、来るな」と
言われてしまっているような気持ちになる、
靄がかったブナの林に、冷たい雨。
山麓に入る装備としても不足していると判断し
山道を登ってきたものの泣く泣く入林を断念。
トチノザウルスにはまた冬眠明け、
春に会いに来ようと心の中で誓って
来た道を戻る羽目になってしまった。
それでも登ってくるまでのドライブで見た
雨に濡れる紅葉・黄葉の色鮮やかな様は
運転中も目を奪われる誘惑に悩まされるほど。
秋のブナ林の一部を楽しむことが出来た。
更に道を下る途中、些か雨が弱まったところで
行きの道でも気になっていた立て看板、
「月山山麓 湧水群 ブナの泉 30m→ 」が
再び目に留まり、ここならば少し入れるかと、
寄り道してみたのが大正解であった。
子どもたちが挑むオリエンテーリング企画で
杉山先生が謎解きの鍵を設定するにあたって、
樹々の下枝が抜け出ている白い空間を
たてがみのある「白きライオン」と見立て、
ハゼノキに宝物を隠しておく場面があった。
木々が織り成す景観が掻き立てる想像力は、
子どもにも大人にも有効である。
冬場の豪雪をじっと耐え抜き、
その形を育まれた歴史と浪漫を感じさせる
トチノザウルスもまた、
自然博物園を訪れる人々に親しまれている。
ブナの葉が緑の時には淡い木漏れ日が降り注ぎ
例えるなら色鉛筆王国という感じだったが、
これらが黄葉したなら一体どうなるのだろう。
どんなに美しくなってしまうのだろう。
子どもの頃、クラブ活動で培った
好奇心と探求心が捨てきれず、
ネイチャーセンターが冬季休園に入る前週、
「今日しか予定を空けられない」と思い立って
車を山の方へと走らせたというのが、
「先日」の十月末の話である。
こんな悪天候はクマも出歩かないだろうという
横殴りの雨が、かえってわたしを駆り立てた。
冬が来る前に是が非でももう一度行きたいと、
惹きつけてやまない場所となったのだ。
大人になっても自然探検クラブ活動は続く。
しかしながら、ネイチャーセンターに着けば
雨はなんと、みぞれ混じりに。
前の週に月山が初冠雪しており、
麓にも冬は着々と近づいているのであった。
「七つの森」では、霧女ボーゼなる登場人物が
森の奥へ子どもたちを近づけない、
恐るべき存在として描かれていたが、
わたしもボーゼに「この先は危険、来るな」と
言われてしまっているような気持ちになる、
靄がかったブナの林に、冷たい雨。
山麓に入る装備としても不足していると判断し
山道を登ってきたものの泣く泣く入林を断念。
トチノザウルスにはまた冬眠明け、
春に会いに来ようと心の中で誓って
来た道を戻る羽目になってしまった。
それでも登ってくるまでのドライブで見た
雨に濡れる紅葉・黄葉の色鮮やかな様は
運転中も目を奪われる誘惑に悩まされるほど。
秋のブナ林の一部を楽しむことが出来た。
更に道を下る途中、些か雨が弱まったところで
行きの道でも気になっていた立て看板、
「月山山麓 湧水群 ブナの泉 30m→ 」が
再び目に留まり、ここならば少し入れるかと、
寄り道してみたのが大正解であった。
なんというクレヨン王国!
西川の秋の色の鮮やかさを知り、
町の中に増えつつある、好きな風景画が
また一つ出来た日であった。
西川の秋の色の鮮やかさを知り、
町の中に増えつつある、好きな風景画が
また一つ出来た日であった。
