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最上川がつなぐ山形(中) ── 米沢から寒河江へ、暮らしとデザインの風景

山ノオト

2025.10.28

最上川の上流、米沢盆地から山形盆地へ。
旅の途中で筆者が出会ったのは、有名な観光地だけでなく、
地元の人々の暮らしに根づいた“生きた建築”や“日常のぬくもり”でした。


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【米沢盆地エリア】

置賜地方という名前のほうが山形県内では通りがよいかもしれない。
しかし外の人間にとっては、米沢牛の認知の高さから“米沢盆地”のほうがイメージしやすいのではないかと思い、こちらの名前を使っている。


山形県と福島県の県境にある西吾妻山を源流とする最上川は、まずは米沢盆地に流れ込む。
ここは、山形駅からのアクセスが比較的良いこともあって、ネット等で人気とされる観光地が集積しているように思う。

例えば熊野大社。縁結びということで有名らしい。
精緻に彫られた木彫りには三匹のウサギが隠れていて、それを見つけ出すとご利益があるということで、人気の観光スポットになっている。

茅葺きの入母屋造は珍しく(ふつうは銅板の屋根)、なかなかに迫力があり、その質実剛健たるさまがまた東北らしくてよい。
質実剛健、といいつつも当然ながら瓦や金属板の屋根に比べるとはるかにメンテナンスコストが高い。
以前に訪問した際はメンテナンス費用のクラウドファンディングを実施していた。これからも守り続けてほしいものである。
また、映えスポットとして人気なのが白川水没林。
ダム湖の水の中に林がある光景は、写真が下手なためうまく伝わらないが、なかなかに幻想的である。
雪に閉ざされた長い冬を超えた、雪解け水が流れ込む四月、五月にしかみられないという希少性もまたよい。
この時期は出羽屋の春の山菜の盛りの時期でもある。

前掲の書籍(山形の食事編集委員会「聞き書 山形の食事」1988年)は山形の各地域の古老に大正時代ごろの食や生活を聞き取りしたものであるが、その中にこんな一節がある。

「長い冬を超えて、新鮮な野菜を腹いっぱいたべると、まるで生き返るような心地がする。」

この水没林をみて、出羽屋で山菜を食べると、冬を乗り越えた生命の、なんとも瑞々しい迸りをかんじるものである。

また、米沢盆地の周辺には、観光地だけではなくワイナリーも集積している印象であり、ワイナリー巡りも楽しいのではないか。


【山形盆地エリア】

米沢盆地を悠々と流れて最上川は朝日連峰を横目に山形盆地へと流れ込む。
山形盆地は山形駅、山形空港を擁する、名目ともに山形の中心であり、出羽屋もこのエリアにある。
山形を代表する人気スポットの山寺や、
蔵王の御釜は、山形はおろか東北を代表する観光スポットであり、もし未訪問であれば絶対に行ったほうがよい。
 
山形の歴史に思いをはせるという意味では、山形県立博物館もおすすめである。

が、お子様連れには何といっても道の駅「チェリーランド寒河江」がおすすめである。
山形市と出羽屋の概ね中間地点にある寒河江(さがえ、とよむ)の、6月7月は名産品であるさくらんぼが沢山購入できる、少し大きいだけの何の変哲もない道の駅。
 
と見せかけて、“CLAAPIN SAGAE(クラッピン寒河江)”という非常に充実した&木を多用したデザインが北欧らしくもありつつもどこか親しみやすい、素晴らしい子供のための遊び場がある。
しかも無料。1歳くらいのお子様から小学生高学年くらいのお子様まで幅広く遊ぶことができる。

チェリーランド寒河江の駐車場に車を止め、クラッピン寒河江に入ると、まずは柔らかく反響し混ざり合う子供たちの遊び声に心地よさを覚えるはずだ。
次に、都心部ではありえないほどの贅沢な空間の使い方や、“世界樹”と呼ばれ中央にそびえたつ大型ネット遊具に目を奪われると思う。

小さい子供が永遠に時間をつぶすことのできる仕掛けが各所に施されていて、飽きることなく子供らが遊んでいて心が和む。
写真ではうまく伝わらないが、大きな窓の配置のバランスもよく、周囲を空の青と木々の緑に囲まれていて、きわめて広々と開放的な印象を受ける。
利用者の過半が山形県民であるという点もよい。
あくまで外部から来た人間として、このような地元に根付いた“ケ”の空間にお邪魔させていただく、という程度が観光客として心地よい。(その体験こそが、私にとっては“ハレ”である)

クラッピン寒河江のデザインの文脈と全く調和しない「えほんよみきかせイベント」の張り紙やひらがなで書かれた注意書きにも「そうそう、これこれ」といとおしさを感じる。(設計者が見たら眉を顰めるかもしれない)

外部の人間を集客することを狙い、結果として外部の人間で賑わう建築物は多々ある。(インバウンドに特化したホテルや観光施設はその典型だろう)
あるいはその土地の人のための施設ではありながらもデザインが上滑りし、閑古鳥のなく寒々しい建築物も多々ある。(自治体予算で作られるハコモノはしばしばその末路をたどる)

が、その土地に住む人のために作られ、かつその土地の人に利用され日常に根付いている、いわば“生きた” 建築物というのは珍しい。

まさにクラッピン寒河江は“生きた”建築物であり、その設計時に想定された空間デザインと、実運用における「えほんよみきかせ会」の張り紙の調和こそがその象徴だと感じる。

ちなみに出羽屋できいたところ、山形には各所に「クラッピン寒河江」のようなお子様が楽しめる施設があるらしい。
また山形盆地のエリアには、このほかにも将棋で有名な天童市や、芥川賞作家である阿部和重の「神町サーガ三部作」の舞台であり、作中で重要な役割を果たす若木山がある。

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旅はさらに北へ──
次篇では、山形最北の金山町、そして日本海にひらけた庄内平野へ。
“生きられている伝統”と“風の通う風景”を訪ねます。