山菜料理 出羽屋

山から届く秋の便り<9月の山の宅配便>

季節のたより

山の宅配便

2025.09.03

裏山の木々のあいだから、ひんやりとした風が降りてくるようになりました。
まだ日中は強い陽ざしに汗ばむこともありますが、夜になると虫の音が一斉に鳴きはじめ、窓から吹きこんでくる空気に秋の気配を感じます。

庭先では赤とんぼがすいすいと飛び、子どもたちが夢中になって追いかけている様子は今だけの宝物。
夏の終わりと秋のはじまりが入りまじる9月の山は、ちょっぴりせつなくもありますが、豊かに彩られています。
そんな空気の変化は、台所の食材にも表れます。

艶やかな紫色のアケビが並びはじめると、心が躍ります。
白く透きとおる果肉に黒い種が並び、甘いのか渋いのか確かめるように口に含んだこと、厚い皮を味噌炒めにしておそるおそる苦味を楽しんだこと。その一つひとつが懐かしく、秋の山里ならではの思い出を運んできてくれます。
油との相性がよいアケビは、中に肉味噌やきのこ味噌を詰めて揚げ焼きにすれば、つややかでご飯が進むおかずに。
春は新芽を楽しみ、秋には果肉を楽しむたった一つの野菜のなかに、季節の行き来が刻まれています。
菊は、不思議な花です。
ひと皿の真ん中にあれば堂々と季節を告げる主役になり、
そっと添えれば料理の味や彩りをやさしく引き立ててくれる。
主にもなり、寄り添う存在にもなれる、そのしなやかさが、菊の魅力なのだと思います。
山からは、きのこの便りも届きはじめました。
舞茸やかのかはだし汁に泳がせると、蒸気とともに香りが立ちのぼり、食欲を誘います。
その豊かな香気は、食卓にまっすぐな秋を連れてきてくれます。

とびたけはご飯と相性のよいきのこ。
お揚げとこんにゃく、ごぼうと一緒に甘辛く炒め煮にしてから、炊きたてのご飯に混ぜ合わせます。
油揚げの旨み、こんにゃくの食感、ごぼうの香りがとびたけの風味と重なり合い、一口ごとに山里の景色がひろがるようです。
湯気の向こうに、秋の森の匂いが立ち上ってくる。そんな混ぜご飯です。
秋のはじまりの山は、実りと彩りが入り混じる時季。
夏に日焼けした子どもたちの頬が、秋の実りでふっくらと丸みを帯びていくように、台所も少しずつ実りの色に包まれていきます。
ひとつひとつの食材には、山の時間の流れがそのまま宿っていて、口に運ぶたびに“今しか味わえない一瞬”を感じさせてくれます。

わたしたちにとっては日々見慣れている食材も、土地を変え、空気を変え、皆さまのもとへと届くとき、きっと“この土地の秋”を閉じ込めた一皿となるのでしょう。
朝の冷たい空気を含んだままのあけびや、山の湿り気を纏ったままのきのこ、それぞれがこの土地の秋をまるごと抱えた小さな旅人のようです。


自然はいつだって、そのときそのときにふさわしい恵みを運んできます。わたしたちはただ、そのめぐりに気づいて、受け取るだけ。
どうぞ、この「山の宅配便」とともに、夏から秋へと移ろう山の風を食卓で感じていただけますように。


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