山菜料理 出羽屋

『黄色い夏の日』とミントティーの記憶

山の文庫(ふみくら)より

2025.08.20

外から通うわたしの目には、
西川町の景色は常々、
加工フィルターを掛けたかのように
緑味を帯びて映る。
おそらく、周囲の山々の色の反映なのだろう。
それでも、隠れ積雪日本一の町にさえ
今年の夏は殊更に厳しく、
眩しい太陽光線にさらされ、
時々は黄色がかって見えもする。
 
今回の記事でご紹介する、高楼方子さん作、
木村彩子さんが手がける装画や挿絵も
作品を味わい深いものとしている、
美しい本の名は、『黄色い夏の日』。
 
水彩画の挿絵は、冒頭の10頁ほどは丁寧に、
その後は読み手を物語の中へ誘うように続く。
とりわけ、舞台となる一軒の洋風建築の家、
黄色の小花が咲く前庭へと。
 
その後しばらく挿絵は登場しなくなるのだが、
ストーリーテラー・高楼さんの文章でも
情景がありありと浮かんでくるために
違和感なく、一時は忘れてしまう。

それが後半に差し掛かってもう一度だけ、
木村さんの挿絵が効果的に挟まれる箇所がある。
 
190頁から191頁にかけての、
文字の入る隙間もない、
挿絵だけの黄の花と緑の葉の洪水のような見開きは、
淡いタッチでありながら、
鮮烈と形容するにふさわしいもの。
 
主人公の景介が微動だにせず見つめた光景、
咲き乱れるキンポウゲの原に、
まるで自分もしゃがみこんで
花々を見つめおろしているようで、
この開いた頁をずっと眺めていられる気にさえなる。
 
作品の一つのモチーフの黄色の花は、きんぽうげ。
黄金色とも言える輝きを持つ植物は、
物語のそこらかしこに小さく可憐な、
それでいて存在感ある花を咲かせる。
 
ちなみに月山では山の雪解けの頃、
すなわち7月頃に、みやまきんぽうげが
弥陀ヶ原湿原で見ごろを迎えるとのこと。
見るものが緑がかって見える、
西川の山で咲くきんぽうげは、
一体どんな黄色なのか。
いつか自分の目で確かめなければと思っている。
 
ところで、わたしがなぜ今回、この本を選んで
山ノオトを執筆しているかというと、
最近、はじめて出羽屋農園産の
フレッシュミントを使用したミントティーを飲み、
そのおいしさに感動を覚えると共に、
本に度々出てくる一つの鍵、
「菩提樹の花茶」を思い出したからだ。
 
物語に登場する洋館の主であるおばあさん、
小谷津さんが、
自ら庭の木から摘んで乾かしたという、
菩提樹の花を使ったお茶。
 
黄色く透明なお茶は、小谷津さん自らも勧める際に「おばあさんくさい飲み物」と称し、
飲んだ主人公たちも
風変わりな味とは正直認めながら、
美味しくないことはない、
洋館の雰囲気にふさわしい気がすると思うような、
そんな味なのだそうだ。
 
菩提樹という和名を聞くと、
かえってどんな木だったかピンと来なくなるが、
リンデンフラワー、リンデンバウムの花と聞くと、
ハーブティーのひとつのフレーバーとして
認識しやすくなるように思う。
 
かくいうわたしは、リンデンのお茶を
まだ試したことがなく、主人公になった気分で
恐る恐る味わってみたいところだが、
「心がホッとするよ」と勧めてもらった
出羽屋の黄色く透明なお茶こと、ミントティーは
爽やかな香りと、すっきりした自然な甘みがあり、
酷暑に疲弊した心身がほどけるような味わいだった。
 
お茶というものは物語の中によく登場する。
ドラマの最中にいる主人公たちの心を元気づけたり、
お菓子とともに重要な、あるいはささやかな
コミュニケーションの場に登場したり。
 
日常に寄り添った飲み物である分、
その日その時その瞬間の記憶として、
味わいが頭や心に残りやすいものなのだと思う。
 
わたしの出羽屋ではたらく暮らしは、
当然ながら永遠のものではない。
ずっと年を重ねてから、
ここでの思い出を辿ったときに
緑がかったり黄色がかったりして見える
自然豊かな西川の夏、
そして、このミントティーの特別なおいしさ、
飲んだときに胸を満たした優しい感情を、
きっと愛おしく思い出すのだろう。