山菜料理 出羽屋

【ここに暮らす vol.01】記憶

ここに暮らす

2026.09.26

慌ただしい夏の日々がようやく落ち着き、窓に吹きこむ風をゆったり楽しめるようになった秋の夕暮れ。

私は今、西川町にある築180年の古民家「嘉左衛門」で、これを書いています。

近くの田んぼでは先日稲刈りが行われ、風の中には稲刈り直後の独特の匂いが混ざっています。
この匂いを嗅ぐと、タイムスリップしたように、生まれ育った酒田で過ごした日々を思い出します。
私が子どもの頃、実家は米農家でした。
米農家は春から秋にかけてはほぼ休みがなく、夏休みや連休に友達が旅行へ行く中、私たち家族は毎日田んぼに出かけていました。


田んぼの中を走り回ったり、兄と一緒にひたすらイナゴを捕まえたりしていた幼少時代。
イナゴを祖母のところに持っていくと、「佃煮が作れる」と喜ばれ、お小遣いをもらえたこともありました。

今思えば豊かな時間だったと思うのですが、それが一日数時間、それも毎日ともなると、さすがに子どもの私には退屈で、
「友達みたいにどこかに出かけたい!」
と、時々わがままを言って親を困らせていました。


夏の思い出が田んぼとプールしかないことに不満がたまっていた私は、
「将来は絶対に農家になんてならない」
と公言していたほど。


先日、実家のある酒田に帰省する道中、至るところで稲刈りをしている光景を目にしました。
車の中まで稲刈りの匂いが漂ってきて、とても懐かしく、うれしい気持ちになり、コンバインを運転する人の姿は、父や亡き祖父の姿と重なりました。

私がこの稲刈りの匂いを嗅いだときに一番に思い出したのは、退屈だった時間のことよりも、一生懸命に農作業をする家族の姿でした。

大人になった今、宣言通り農家にはなっていませんが、農家さんと一緒に仕事をしたり、畑に遊びに行かせてもらったり、あんなに行きたかった観光施設にはまったく興味を持たなくなって、土や葉っぱ、水など、自然の匂いがするところで過ごす時間が好きになっています。
そう思うと、田んぼで過ごしていた豊かな時間が、今の私の基礎をつくっているような気がします。

現在、実家は米農家をやめ、田んぼも売ってしまったため、もうあの頃の光景を見ることはできません。
それでも、稲刈りの匂いは、あの日々のことを鮮やかによみがえらせてくれます。

私にとって稲刈りの匂いは、「記憶」を呼び起こす、大切な秋の香りとなっています。
          ∞∞∞

はじめまして。
今回から【ここに暮らす】でコラムを書かせていただく、伊東絵里子です。

山形県酒田市で生まれ育ち、4年前に西川町へ移住してきました。現在は、西川町・間沢にある築180年の古民家「嘉左衛門」で、ゲストハウスを営んでいます。
このコラムでは、西川町へ移住してきたこと、嘉左衛門をDIYでつくってきた日々、そして、この土地で暮らすなかで感じることなどを、少しずつ綴っていけたらと思っています。

Instagram:嘉左衛門
文・写真:伊東 絵里子